「手を抜かない。」は、スローガンやこだわりでもなく、私にとっては息をするようなものでありたい。
だから、その言葉は、「私、今、息しています。」と、わざわざ言っているようで、気恥ずかしさを感じていた。
作業台の上に並べられたパーツを、ひとつひとつ繋ぎ合わせて服を完成させていく。
ようやく出来上がったその服が、その日のうちにお客様の元へ旅立っていくこともある。
それは大きな嬉しさでもあると共に、私の一部分が離れていくような感情も同居する。
「もっと私の服たちに、やれたことはなかったのだろうか?」
そういう不安な気持ちは、モノを作っている以上はどうしても抱いてしまう。
そこで私は、毎日のルーティーンワークの中で、後悔だけはしたくないと思う。
看板の下に括り付けられた、「丁寧に、丈夫に、手を抜かない。」は、むしろ私に向けた言葉だと、改めて気がついたのだ。